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薬膳料理家/パン講師 日野貴恵さん

日野 貴恵さん

薬膳料理家/パン講師

宮城県石巻市で活動する日野貴恵さん。天然酵母や国産小麦など材料にこだわりを持つパン講師であり、日本で取得できる薬膳師として最高位の中国国家資格『国際中医薬膳師』を持つ薬膳料理家の顔も持つ。そんな日野さんにテフの魅力や食材としての可能性を伺いました。

食は体を作り 心に作用する

―テフを知ったきっかけはパンだと聞きました―

ポリ袋で天然酵母パンを作る『ポリパン®』を発案した梶晶子先生の元でパン作りを学びました。テフを知ったのは彼女が書いたパンのレシピ本に副材料としてテフが紹介されていたからです。健康効果を目的に栄養豊富なテフをパンの副材料として使うのはありだなと思っています。

 

― “天然酵母”や“国産小麦”など食材にこだわりを持たれていますね―

パン同様、講師をしている薬膳料理は中医学(中国で体系化された医学。日本で独自に発展した漢方医学の源流)の考えに基づいて調理される料理です。中医学の考えでは食材一つ一つに効能があると言われていて、私自身が不妊治療で漢方に出会って子供を授かったこともあり、食材ひとつひとつが持つパワーを重視しています。

例えば、レシピで提案したテフボール(←レシピにリンク)で使ったナツメは、造血といって血を作る力があったり、食材ごとに人体に作用するパワーや効果があります。食事は毎日のことなので体質が変わってきますし、心にも作用するのでとても大切です。

―心にも作用するのですか?―

中医学では気鬱という うつの塊が体に溜まるという症状があります。そこでジャスミン茶を飲むと、香りやジャスミンが持つパワーで うつが消える効果が期待できます。実際やってみるとリラックスできますよ。

西洋医学から うつ症状をアプローチすると、よく眠れる薬や興奮を下げたり上げたりする薬が出されますよね。私も飲んだことがあるので分かるのですが、一時的にすごく良くなり即効性があってよいのですが、それを続けていくと体の負担になって不調が出てしまう人もいます。

中医学では、食事が目に見えない“気(栄養の塊)”を作るという考えを大切にしていて、選び摂る食材によって体調が変わります。“気”というと取っ付きにくいかもしれませんが、東洋医学と西洋医学を摂り入れる統合医療では、これらの考えが認められつつあります。最近、相容れないと思われていた双方の医学が互いを補完する関係になっているのです。例えば、何時に何を食べれると どの内臓に効果があるかという、体と時間の関係を東洋医学で「子午流注」というのがあります。これは4000年前に確立されたものですが、西洋医学の観点からも理にかなった考え方であることが分かっています。

 

うつ 目の疲れ 隠れ貧血

現代人にもってこいの食材がテフ

―そういった観点からテフはどのような食材ですか?―

栄養面で様々な価値がある食材だと思いますが、特に鉄分豊富な点に注目しています。

先程の心の問題で言えば、考え込んだり心を病んだりすると血をたくさん使ってしまうんですね。テフのように血を作る鉄分を多く含む食材は うつの予防や改善に役立ちます。血の巡りが精神の健康に綱がるということです。

パソコンやスマホなどで目が疲れている人が多いと思いますが、鉄分はこれにも有効です。中医学で肝臓は血を溜めてたり作ったりする内臓で、目と深い関係があるとされています。他にも鉄分を摂ることで女性に多いとされる隠れ貧血の防止にもなりますし現代社会で生きる私たちにとって大事な栄養素の一つを豊富に持っていて、メンタルとフィジカルの両面で活躍できる食材ではないでしょうか。

あと、テフは穀物として栄養を全部摂り入れられる食材ですよね。中医学では一物全体、ホールフードとも言われますね。全ての生き物は、個体全体でバランスを保っています。ですので食材を欠けることなく摂る事で食材本来の力を摂取できるという考えです。その点でも精製されていないテフは魅力的です。

 

―今回テフを使ってパンを作っていただきました―

米粉に近いですが、より粒子が細かくて、この世にこんなに細か穀物が存在するのかと本当に驚きました。この細かさは食感の柔らかさに繋がると思います。吸水率がよいのも特徴ですね。限界はありますが、パンは加水するほど口溶けや食感がよくなります。美味しいパンになるかの肝ですので大事な副材料として使える食材です。加えて、小麦粉との風味の違いも感じました。テフは香ばしさと甘みがあって、どの料理に入れても可能性があるんじゃないかなと思います。

 

―テフはどのような使い方ができるでしょうか?―

私は2つの使い方を提案したいです。1つは、先程お話したパンなどの副材料として使うこと。これはパンに限らず様々なものに混ぜられると思います。

もう1つは発酵食品としてです。テフを炒ると香ばしさが出て、日本の糠みたいな香りがします。私の祖母が糠を炒って食べさせてくれたのを思い出しまして、テフも糠と同じ発想で摂り入れることができないかと考えています。エチオピアの主食インジェラはテフを発酵させたものをクレープ状にして焼いたものです。酸っぱいという人がいますが、これは乳酸菌と酢酸菌が作用しているのではないかと思います。穀物を発酵の力を借りて、人体に良い形で取り入れる知恵がエチオピアでも脈々と受け継がれていることは非常に興味深く、テフの取り入れ方としてインスピレーションを感じました。テフを日本古来の酵母と合わせ、発酵のパワーを活用することで、アミノ酸やタンパク質の分解が進み消化を良くする可能性も感じます。元々テフには腸内環境を整えるパワーがあるので、より鉄分を吸収しやすくなるわけです。

どんなに栄養価が高いものを食べても消化機能のパフォーマンスが悪いとうまく吸収せずに排出されてしまいます。テフは、食べることで消化機能を整わせながら栄養を摂ることができるという一石二鳥な食材なんです。発酵種は作るのに時間がかかるので、手軽にできる方法を確立したいと考えています。長年続いてきた食文化には理由があります。エチオピアが長年培ってきた摂り方を活かしながら、日本古来の食文化と融合させて、日本人が手軽にテフを摂り入れる方法を模索したいですね。

薬膳料理家/パン講師 日野貴恵さん

日野 貴恵さん

薬膳料理家/パン講師

PROFILE

日野貴恵

宮城県生まれ。

東日本大震災をきっかけにパン作りに興味を持ち、ポリ袋で作る天然酵母パン『ポリパン®』の発案者・梶晶子に師事。また、国立北京中医薬大学校日本校を卒業し、日本では薬膳師として最高位の中国の国家資格『国際中医薬膳師』を取得している。現在は宮城県石巻市で天然酵母パンと薬膳料理の教室を主宰。学校や行政施設などで行われるイベントの講師も行う。地元の豊かな食材を使い、パン、薬膳料理、郷土料理の3つの柱で地域の健康と活力を促進することを目標に活動している。

食を通じて成長の喜びを分かち合う時間と場をプロデュースするフードユニット ムスビヤとしても活動中。

公式サイト:HUG works bread & cook

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